行灯で最も重要な部分が顔です。顔で行灯の良し悪しが決まると言っても過言ではありません。
ここでは例として青森ねぶたを参考にした顔の作り方について説明します。
青森ねぶたを参考にした顔と言っても、ねぶた師と流派によって顔の作り方(針金の線、墨入れの入れ方など)がかなり違います。
例えば、北村隆名人に代表される北村系 (北村蓮明さん、北村麻子さん、北村春一さんなど) の作風
や、千葉作龍名人の作風、
竹浪比呂央さんや手塚茂樹さんの作風
外崎白鴻さんなどが所属する我生会の作風
などなど、流派ごとに、そしてねぶた師ひとりひとりに、もっというとねぶたごとにその作り方があります。
すべての顔の作り方は説明できないので、ここでは私が好きなねぶたである北村蓮明氏作『不動と竜王』の竜王の顔を参考に、多少のアレンジを加えて作ります。
この例はねぶたの作り方(北村系)に近いとは思いますが、もちろんこの作り方が必ず良いというわけではありません。
1年生はまずはこれを真似して作ってみて欲しいと思うのですが、3年生がこれとまんま同じに作ると楽しくないので、表情を変えたり墨書きを変えたり流派を変えたり自分独自の作り方にするなど、なにか工夫をしてください。(全く同じに作るのは逆に難しいですが…)
顔は電飾以外のすべての技術(絵、針金、紙張り、墨書き、蝋引き、色塗りまで)が必要とされます。全ての分野に長けた人がいればいいのですが、実際にはすべてに長けた人はいないと思うので、針金が得意な人がやるといいと思います。
まず絵(完成予想図)を描きます。絵を描くことは軽視されがちですが、絵を入念に描くことで成功率が格段に上がります。むしろ絵を描かないとクオリティの高いものを作ることは不可能です。
絵が苦手な人もいると思いますが、何回も描いて練習すれば誰でも描けるようになります。私も絵は苦手ですが、ねぶたの顔だけは結構かけるようになりました。
ねぶたを参考にし、墨が入っている部分を描いていきます。
なにも見ないで納得できるものを描けるようになるまで何回も描いてみましょう。これができないといいものは作れません。
何回も描いているうちに、どの部分をいじれば印象が変わるかがわかるようになっていきます。
こうして理想の顔を探していきます。
などなど
納得できるものができたら、絵の上から針金の線を入れていきます。
立体像を想像し、膨らみ(特に頬)がわかるような針金にします。基本的には下の写真のようにすればいいと思います。
格子をものすごく小さくしている行灯がありますが、小さくしすぎるのはよくありませんし無駄です。格子の大きさは最低限膨らみを表現できる程度で大丈夫です。
これが重要です。これを描かないと針金のときに失敗してしまう可能性がかなり高くなります。
写真のように、針金の線から長さを測り、横顔を描きます。
先ほど描いた横顔に、針金の線を入れていきます。
これも正面の針金と矛盾を起こさないように。
色を塗ってみたり、正面・横からだけではなく上・下から見た図も描いてみるといいと思います。
粘土で作ってみてもいいと思います。
バランスをとるのが難しいですが、先程書いた設計図通りに作れば大丈夫です。
線を入れる順番ですが、顔の中心から作っていくと作りやすいと思います。複雑さでは口の中が一番ですが、例によって最初の縦中心線がもっとも難しいです。
(途中経過の画像は紛失してしまいました。) ありました。いろいろ写ってしまっていますが気にしないでください。
完成
また、ここでは口の中をかなり広くとりきちんと舌を作っていますが、ねぶたでも舌を作るのは珍しい気がします。適当に省略して舌の部分はただの絵にしてしまうなどしてください。
一番時間がかかって面倒ですが、きれいに張ることで墨書き、蝋引き、色塗りが楽になります。
きちんと膨らみをもたせることが重要です。特に鼻や頬。霧吹きを使うと膨らみを表現できないので、使わないようにしましょう。
紙張りで最も難しいところは口の中ですが、多少は汚くなってもあまり見えないところなので大丈夫です。ただ、隙間があったりすると光が漏れてものすごく雑に見えるので気をつけましょう。
墨を入れると一気に見栄えが良くなります。
まずは鉛筆で下書きをして、その後に墨を入れます。鉛筆のあとを消そうとすると逆に汚くなるので消さないように。跡が残っていても全く目立ちません。
特に重要なのは眉と眉間の部分です。眉の部分は、写真のように、筆を開き、まずは薄墨から、その後に濃墨で書きます。眉間はかなり表情に影響を与えるので、よく下書きをしてから書きましょう。
色を塗る際にはみださないようにろうを塗っておきます。
塗るところは口周りです。
北高行灯ではあまりやらない(知らない?)のが隈取り(くまどり)で、隈取りをするとおもちゃっぽさが抜けて立体感と凄みがでます。必ずやりましょう。
焦げ茶色で塗っていきます。グラデーションが大切です。平筆を用います。
まず筆全体に水を含ませ、適当に水を切ります。その後筆先の半分だけに茶色を含ませ、塗っていきます。
隈取りはただ墨書きした部分の周りにすればいいというわけではなくて、隈取りをする部分は決まっています。
まず、毛の部分は隈取りはしません。シワの部分だけ、膨らんでいるところにします。
目の青(、緑)、口の赤を塗っていきます。文章で書くのは面倒なので写真を見てください。
目の青(2009年のに組のねぶたのように、必ずしも青とは限らない)は必ず入れること。目力がでます。(余談ですが、60th3年は目に青を入れた行灯と賞をとった行灯がきれいに一致していました)
とりあえず完成。
また、この例は肌が白いですが、肌もきちんと塗らなければいけません。いわゆる後塗りでむらなく塗るのは難しいので、肌の部分だけ事前に塗ってある紙を貼ってもいいと思います。60th大賞の魄焰はこの方法でやっています。
(追記)2014年8月17日まではここまでしか作っていませんでしたが、肌も塗りました。下に続く。
目にもろうを塗ります。目にろうを塗ると、文字通り眼光が鋭くなります。60th大賞も目にろうを塗っています。
かなり失敗しやすいので、ろうの扱いに自信がない人はやらないほうがいいかもしれません。この例も失敗してしまいました……。
また、この写真では目の青い部分にはろうを塗っていませんが、この部分にも塗りましょう。ねぶたも塗っています(テレビのねぶた師(北村麻子さん)特集より)。
最終段階、肌の色塗りです。
絵の具は青森の人におすすめしてもらったこの2色です。
バーミリオンは少なめで。水はかなり多めで大丈夫です。
このくらい(もっと薄くてもいいかも)。
奉書紙でよく練習+色の確認をしてから塗りましょう。
試し塗りの犠牲になったてるてる坊主くん。(余談ですが、このてるてる坊主は65thの行灯行列前日の夜に作りました。65thの行灯行列の日は台風が直撃しそうだったのですが、晴れました。)
塗っていきます。刷毛塗りです。
完成!
今回は刷毛塗りでやりましたが、刷毛塗りでむらなく塗るのはものすごく難しい(この顔もムラが…)ので、エアブラシを持っている人はそっちのほうがいいかもしれません。
兜などをかぶっている場合には上のような面でいいのですが、そうではない場合には、髪や髭も作らなければいけません。
行灯の勢いの向きに髪を向かせます。顔が見えなくならないように気をつけましょう。
髪で一番難しいのは墨書きです。大きい刷毛を使って、潤筆にならないように新聞紙などでよく水分を切ってから塗るといいでしょう。これも最初は薄墨で、次に濃墨で書いていきます。
最初に述べたようにこれ以外の作り方もいろいろありますが、基本的にこの針金の組み方で、そこから凹凸を少し変えたり口を閉じたり、墨の入れ方・隈取りのやり方を変えるといった感じで表情を作っていくのがいいと思います。技術力に自信がない、作りたい顔が特殊でない、顔に対するこだわりがない、という場合はそうした方が無難です (逆に当てはまらない場合はどんどん変えていったほうが差別化できていいと思います)。
また、51期の方々が書いた行灯の作り方で説明されている顔のつくり方があります。よく見るこの図です。
この記事では
ただ真似するのではなく技術や方法を理解・修得してほしいです.
と書いてあるように、この作り方を真似して欲しいのではなく、顔に対する考え方を理解してもらうことを目的としています。
よく針金講習会の資料にこの図が載っているのですが、この文脈がないまま、まるで顔の作り方はこれが唯一であるかのように載っているため、これをそのまま真似したような行灯が多数存在しています。
私はこの作り方は絶対にやめたほうがいいと思っています。
というのは、この作り方で作っている行灯はそのほぼすべてがあまり良いとは言えないものになってしまっているからです。
事実、この作り方をしている行灯で行灯大賞を取っている行灯はありません (この図の作者の行灯 (51st大賞) もこの作り方ではないように見える)。
良い面は骨組み(針金)の時点でかっこいいものです。この図がかっこよく見える人はこれで作ってもいいんじゃないかと思うのですが、私には不細工にしか見えません。
顔は最も難しく神経を使うところですが、それだけ作るのが楽しい部分でもあります。特に、墨を入れたあとの感動は言い表せないものがあります。
腕に自身のある方はぜひ挑戦してみてください。