甲乙人が考える針金理論です。できるだけ汎用的に書こうと思っていたのですが、結構自分独自の考えが入っていると思うので、この題名にしました。
万人受けするとは考えていません。違う意見の方は是非コメントください。
土台・支柱の次は針金を使って平面だった構図を立体にしていきます。この段階のことを一般的に“針金”と言います。
針金という分野に求められるものは、基礎技術・表現力・スピード です。
この三つはどれが欠けても良い針金とは言えません。
この記事で出てくる用語とその定義です。
実際に説明していく前にまず道具と材料の説明から。
針金には太さによって名前が付けられています。#8(はちばん)という針金が最も太く、数字が大きくなるにつれて細くなっていきます。数字は偶数のものしかありません。
この他の材料としては、針金を木材に止めるステープルや釘があります。が、使わなくてもできます。
まずは針金作業に必須であるペンチの使い方をマスターしましょう。
ペンチの握り方は、薬指と小指を持ち手の間に挟む形が一般的なようです(下の動画の後半)。
ですが、この持ち方だとうまく力を入れられないので、私は人差し指を持ち手の間に挟んで握っています(下の動画の前半)。
先曲がりラジオペンチを使っている場合、ペンチを回転させることが多いです。
下の動画のように回転させると、片手でスムーズに回せて、かつ次の作業に移行しやすいです。
思い通りの曲線を作れるようにしましょう。
時計回りの方向に曲げるとやりやすい。
針金をペンチで掴んで固定し、手のひらを上から押し当て、一気に折り曲げます。
慣れていない人が意外に苦戦するのが針金を切ることです。慣れていない人は一気に切ろうとするので、よく切れるペンチかミゼットカッターでないとうまく切れません。
ですが、ミゼットカッターがないときや誰かが使っていて使えないときもあります。
こういうときは、ペンチで少し切れ込みを入れてから、切れ込みを入れた部分をペンチで直角に曲げるようにすると簡単に切ることができます。こうすることで刃の負担も少なくできます。
針金を扱うとき一番初めにすることは針金を伸ばすことですが、一番重要なのも針金は伸ばすことです。
まっすぐ伸びていない針金は醜く、どうしても下手に見えてしまいます。
針金は始め円状の束になっていますが、曲線の凸の部分に対して均等に力を加えていき、まっすぐにしていきます。自分は親指の付け根のふっくらした部分と小指の付け根のふっくらした部分の間の溝になっている部分(ほとんど手首)と、人差し指の第1関節に針金を当てて伸ばす方法を使っています。(画像参照)
完全に直線にする必要はほとんどない(刀など無機質なもの以外)のでほとんどの場面ではゆるやかな曲線で大丈夫です。
下の動画のように、手首に針金を当てながらまっすぐしていくと、速く、きれいにできます。
一つの格子を組むことで重要なのが、格子の形や大きさ、針金の重ね方を考えることです。
格子はその周辺の格子と統一感のあるものにすることできれいに見えます。
なので、形や大きさが周辺のものと同じになるように格子の組み方を考えましょう。
格子はできるだけ四角形にし、平行四辺形(長方形に近づけるとなお良い)にするとより綺麗になります。格子の対辺を平行に、そして角が90°に近づくようにしましょう。
三角形だと頂点に針金が集中して段差ができてしまい紙が貼りにくくなったり、五角形以上だと綺麗に見えなかったり作るのが面倒だったりします。
格子の大きさは大きすぎても小さすぎてもダメです。
小さくてもダメというところが意外かもしれませんが、格子を細かくしすぎると針金の線が出すぎて汚く見えます。また、無駄に格子を細かくする時間があったら他のことに時間を使ったほうがいいと思います。
大きくなだらかな部位(衣など)では30~40cm、複雑でカーブが急な部位(龍など)では7~15cmくらいが目安だと思います。
2本の針金を交差させるときは、どちらが上になるようにするか、ということも考えなくてはいけません。これが間違っていると、紙を貼るときに貼りにくくなったり、貼ったあとの見栄えに大きな違いがあります。
特に細かい部分(顔の歯、口など)は、これを守ると紙貼がきれいになります。
基本的にはより凸が急な方を行灯の内側に、凹が急な方を行灯の外側に、というルールで重ね方を決めればいいと思います。
少し練習すれば誰でもできるようになるのが針金同士を固定することです。これが出来るだけで大きな戦力になるので、針金初心者の人にはこれから教えましょう。
固定する方法にはいろいろな方法(ビニロンという糸とボンドを使う方法(ねぶた)や、ビニールテープを使う方法、細針を使わない方法)がありますが、ここでは北高行灯でスタンダードな細針を使う方法を説明します。
固定方法には十字、T字、I字があります。十字は針金を交差させて固定する方法で、最も多いです。T字は一本から枝分かれするようにもう一本を固定する方法で、I字は2本を繋ぎ足す方法です。
この三つの方法をマスターすればどんな物体でも作れるようになります。
まず十字から説明します。
十字にもいろいろな方法があるのですが、私が使っていた方法を説明します。
このやり方の良さとしては、
があります。
下は実際にやってみている写真です。
(TODO:動画)
次にT字です。写真を見ればわかると思うので解説はしません。
(TODO:動画)
最後にI字です。これも写真を見ればわかると思うので解説はしません。
(TODO:動画)
男巻きとも呼ばれています。細針を全く使わず針金同士を固定するという方法です。
これは握力と器用さの両方が必要で、かつ失敗することが多いので通常の用途ではあまり使わないほうがいいと思いますが、
下の『木材を固定する』の節で説明する、木材に針金を固定するときは、これを使うことでかなり強く固定されるのでおすすめです(木材と固定する場合はそんなに難しくないです。やりまくっていると手首が壊れそうになりますが)。
針金は木材に固定しないと揺れてしまいます。揺れている行灯は萎えるので、しっかり固定しましょう。
木材に固定する方法はステップルを使う方法、釘を使う方法、金槌のみ使う方法、何も使わない方法などがありますが、ステップルを使う方法と釘を使う方法はしっかり固定されないので何も使わない方法を説明します。
(ねぶたでは針金の表面まで支柱をいれ、それにステップルなどで固定していますが、これをすると木材の影ができやすくなり電飾がすごく難しくなってしまうのでここでは推奨しません。)
一本巻きの要領で巻き付けていきます。このとき、木材を針金で締め付けるようにするとしっかりと固定されます。逆に締め付けが弱いと意味がありません。
また、木材に固定する針金は#10など太い針金を用いましょう。
地域によっては針人間とか呼ばれているものです。
棒人間は、基礎技術(木材に針金を固定する以外)のすべての要素を含んでいて、絶好の練習対象です。
棒人間をきれいに作れるようになりましょう。
終盤になってくると、紙を貼ったあとのパーツを、紙を貼ったあとの本体に固定する、という場面が出てくると思います。そこで取る方法は少し紙を破いて固定する・縫い合わせるの二つです。
少し紙を破いて固定する方法は簡単です。見えないくらいに紙を指で破り、普通に細針で固定してください。
縫い合わせる方法はかなり難しいですが、全く目立ちません。破る方法だと夜そこから光が漏れてしまうこともありますが、縫えば光も漏れません。
ここまで基礎技術について説明してきましたが、針金はただきれいに作ればいいというわけではありません。動きや迫力が出るように作らなければいけません。
そこで必要になるのが表現力で、はじめににも書きましたが、構図を立体にする力です。
要は構図に忠実に(+αとして動きを入れる)作ればいいだけなのですが、これがすごく難しいです。
躓きやすいところでは、
といったことがあります。
ここらへんのコツを紹介します。
とにかく長さを測りましょう。構図との比や、実物との比で長さを出します。手などのパーツはまず構図との比で長さを出し、自分の手との比で細かいところの長さを出します。
勢いや迫力がでないときは、物体の向き(格子ではないので注意)が妙に整いすぎていることが多いです。規則性をなくすといいと思います。
まずは物体(体とか腕とかいろいろ)の向きをx軸y軸z軸に平行にしないこと、物体同士を並行・垂直にしないこと。
あとはねじったりひねったり、とりあえず不自然じゃない程度に関節を曲げたりすると、勢いがでることが多い気がします。
形と質感は物体の格子の張り方で決まってきます。
物体の形に合った格子の組み方を考えましょう。物体の形に合わない格子にすると、目が錯覚を起こして実際の形とは異なった形に見えることがあります。
物体は基本的な図形(球体と立方体)の格子の作り方を知るだけで作れます。すべての物体はこの基本的な図形の発展形です。このような図形をプリミティブと呼ぶことにします。
まずは球体です。地球の緯度と経度のようにします。(ここでは30°にしてありますが、22.5°でも18°でも構いません。角度を揃えることが重要です)
次に立方体です。簡単です。
実は、球体の作り方で立方体や、立方体の作り方で球体も作ることができます。(ただ、見た目はおかしくなります)
このように、球体の作り方と立方体の作り方でどのような物体でも作れるようになります。ここで、球体を作るような格子の張り方をS型(Sphere Type)、立方体の張り方をC型(Cube Type)と呼ぶことにします。
S型はどこかに球っぽい部分がある物体のときに使います。
これは適切なところに使わないと変に見える可能性が高いです。わからなかったらC型にしておいたほうが無難です。
C型は無機質な物や角張っている物、平面によく使われます。たいていのものに使えます。
次に質感です。
物体には例えば武器や鎧などの無機質な物、着物などの布、人物、炎や水などがあります。
無機質な物は直線になるよう針金を伸ばし、格子の大きさと形を完全に揃えます。こうすることで硬さを表現できます。
布は風になびかせ広げさせます。実際に着物が風になびくときにどういうシワが出来るか観察しましょう。これもランダムな感じが重要です。特に針金の線が流れに沿ってないと線が透けたときにおかしくなるので気をつけましょう。
人物は緩やかな曲線とリアルさです。不自然なところは完全になくします。武器などの無機質なものとは逆に、あまりに整いすぎていると逆に不自然です
炎や水は実際にあるものを観察するのは難しいので、ねぶたを参考にしましょう。一口に炎と言っても色々なパターンがあります。自分の構図にあったイメージのものを選びましょう。これもランダム性が必要です。
不自然な形にしないというのが意外と難しいです。
パーツの接合や大きさ、関節の向きで不自然になっている行灯が多いです。
これは、
しかないと思います。
これは完全に慣れです。常にスピードを出すよう意識するしかありません。
今までは理論的な話が多かったので、実際に針金で作っていくことを考えます。みなさんも頭のなかでシミュレーションしながら読んでいってください。
実際に行灯の針金を作っていくときには段階があります。
1~4は必ずしもこの順番ではなく、だいたいは並行して進んでいくと思いますが、おおまかに言うとこんな感じだと思います。
1つずつ見ていきましょう。
支柱が終わって、針金に入った段階です。いきなりですが、この段階が最も難しいです。どう針金をいれるか悩んでしまって時間を使いやすいですが、思い切ってやりましょう。
ここで主に必要になる技術は、
です。また、表現力の節で書いたことも重要になってきます。
まずどこから作り始めるかですが、行灯の上の方から作り始めるのがセオリーです。なぜかというと、上の方を作るときは支柱を足場にして作るのですが、下から作り始めるといざ上を作ろうとしたとき、下の方に作ってある針金が邪魔になってしまうからです。
また、はじめの一本目というのは失敗しやすいので、失敗しても問題ない・簡単そう・あまり目立たないところにしてください。
次に、支柱と格子をつなぐ針金をどこにいれるか考えます。多ければ多いほど針金がやりやすく、そして行灯が揺れなくなりますが、電飾がしにくくなります。電飾の人と話し合いながら決めましょう。
支柱と格子の間の針金を入れたいので、作りたい部分と支柱との間の長さを、下絵や支柱の図から比例式や三角比を使ってだします。これが50cm以上ないと、光ムラができてしまう可能性が高いです。
長さを出したら針金を伸ばしましょう。(先程だした長さ + 50cm)くらいの長さを伸ばします。束からは切り離しても切り離さなくても大丈夫です。
伸ばした針金を木材に固定します。固定できたら、針金を先程だした長さのところで直角に折り曲げます。そして折り曲げた先の長さが15~20cmくらいになるように切ってしまいます。
以上のことを繰り返し、作りたい部分の支柱と格子間の針金をいれていきます。
支柱格子間の針金を入れたら、格子になる針金をいれていきます。部分によっては寸法を出したほうがいいので、先ほどと同様に寸法を出しましょう。
針金を伸ばし、支柱格子間の針金と固定します(格子の針金と木材格子間の針金はT字になるはず)。格子の針金はまだ束につけたままにしておくとよいです。
これを繰り返していくと、おおまかな形はつくれると思います。
これは簡単で、ただ格子が広そうなところに針金を入れていくだけです。十字の固定さえできれば誰でもできるので、大勢でやってしまいましょう。ただ、格子の大きさやその形に注意しておきましょう。
針金のうまい人・メインとなる人がどこに針金の線を入れるかだけ決めて仮止めし、その他大勢がペンチできちんと固定するという方法だとかなり速くかつ正確にできます。
顔や手などのパーツを作っていきます。
パーツで重要なのが、パーツ全体の大きさと、接合部分の大きさです。これを下絵や行灯本体から出さないと必ず失敗します。最悪作り直しです。
基本、針金の上手い人が一人で作っていきます。格子を細かくしていく段階でも、よっぽど時間がない以外は一人で作ったほうがいいです。
パーツを行灯本体に接合します。接合部分の大きさが合わなければ最悪作り直しです。
紙を張ったあとのことが多いですが、接合部分周辺だけ紙を貼らないでおくと簡単です。張ってしまったときは破くか縫ったりしましょう。
以上で針金は終わりです。
#10を使うべきか#12を使うべきか…など、どの針金を使うか迷うときがあります。
行灯を作りはじめの、全体をおおまかに形作っていく段階(木材との固定を多用)では#10など太めの針金で、格子を細かくしていく段階では#12で、パーツなど複雑なものを作るときは#14など細めの針金、を使うといいです。
もしわからなかったら、いま作ろうとしている部位で自分が扱える限界の太さの針金を使うといいと思います。細かい格子が必要なところで太い針金を扱える人はいないと思いますし、広くてゆるやかなところでは細い針金はだれでも扱えると思うので。
ねぶたでは、支柱と針金を並行して作っていきます。針金を作りながら、支柱をどんどん差し込んでいきます。また、ほとんどのパーツを小屋掛け前に本体とは別に作り、本体に接合という方法をとっているようです。
この方法はやったことがないのでどうなのかわかりません。うまく寸法を測れたらやりやすいかもしれません。
http://photographic.jp/calendar/2009/05/13.html や、 http://photographic.jp/calendar/2009/05/16.html などを見てみてください。
私は、針金は構図を忠実に三次元に再現するだけのものであって、それ自体で勝負するものではないと考えています。針金はどんなにうまくても“ゼロ”にしかなりません。少しでも下手だと“マイナス”です。針金ができてやっとスタートラインに立てるのです。(電飾と紙貼もマイナス~ゼロ、逆に構図と色はゼロ~プラス)
しかしそのスタートラインに立つことがすごく難しいです。構図が簡単(豆腐など、ほとんどプリミティブな形状のもの)だとゼロにするのも簡単ですが、少し複雑になると途端に難しくなってしまいます。
現状、スタートラインに持っていくことができている行灯はない(じゃあどのレベルの針金で“ゼロ”なのかというと、すべてのねぶたです)ので、複雑な構図で“ゼロ”にすることができれば、大賞は固いと思っています。
針金は行灯の花形です。
是非美しい格子で観客を魅了してください!