講評 |
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仕掛人
- 豪快さや荒々しさよりも、女性的美しさと曲線美が強調された作品だった。行灯やねぶたでもここまで「美」を追求した作品はあまり無いと思う。 針金で描いたとは思えないほど、素晴らしい曲線美で感動した。これほど曲線を美しく描いた作品は過去に例を見ない。人1体+女神2体の構図もパーフェクト。針金の技術もパーフェクト。
ただ、行灯行列の小さいサイズで人が中心に居るとどうしても窮屈になってしまう。本作では見事に成功させていてるが、よく見ると人の左右の腕が窮屈に見えなくもない。基本的にはねぶたのようなスケール向きの構図だと思う。 過去の作品を見ると左右に2体という構図が多く、この作品のように人の顔が中心にあるのは珍しく、とても新鮮だった。今後、後輩諸君がこういった人の顔が中心にくる行灯を作ろうとするときの貴重な資料になると思う。
左上の女神も美しくて魅力的だった。人の顔と女神の顔が少し下向きで、アゴを引いた感じであり、行灯を担いだときの高さと観客の目線のことを考慮された設計だった。この顔の角度が絶妙で、さすが大賞クラスの作品だと思った。 ただ右下の女神の印象が若干薄かった気がする。上の女神に見とれてしまい存在感が薄かったかもしれない。顔もよく見えなかったかもしれない。
紫・桃色・水色・肌色が美しく、模様もとても綺麗だった。後ろの絵と、服の模様が56thの行灯の中でもダントツの出来映えだった。服の羽衣のふわふわした感じがとても柔らかかった。51stのナタクの羽衣を彷彿させた。 近年行灯に増加傾向にある「漢字の柄」と「ロウの柄」も素晴らしかった。薄い色の系統で上手くまとめたのは大成功だったと思う。また、色彩豊かなだけでなく、墨入れも上手いので全体的に力強い作品として引き締まっている。もしこれで墨入れが失敗していたら、全体がふにゃふにゃぼやけてしまい、ただ派手な行灯で終わってしまっていたかもしれない。 ただ、髪の毛の墨入れが失敗している(針金は上手いのだが…)。少しだけ墨を染み込ませた筆で、もう少し黒色のかすれた感じが出せたらなお良かった。黒のグラデーションがイマイチ出て無くて残念。白と黒がはっきり別れていてやや不自然。あと、ひげの部分の墨入れで、細かい黒線を一本ずつ書いてるように見えて、そこが残念(ただし、ひげや髪の毛は好みが別れるところだとは思うが)。時間が無かったのかもしれないが、ここの詰めがちょっと甘かったと思う。でも実際に行灯行列を見た時は、他の部分が素晴らしすぎて全く気にならなかった。
電飾は完璧な仕上がりだった。だが、右上と左上の隅がやや暗かった。ここがもう少し明るければさらに迫力が出て、行灯自体がもっと大きく見えたと思う。左上の女神の右手の指先も昼間見たときに光るかどうか心配だったが、やはり暗かった。指先の曲線がとても素晴らしかっただけに光って欲しかった。 でもこれだけ明るければ電飾は大成功だと言えると思う。
最後に余談だが、 最近の行灯は、構図をパソコンでデザインしたり、割り箸や粘土で模型を作ったり、紙は奉書紙を用いたり、蛍光灯を用いたり等々、年々新たなアイディアも生まれ、さらに進化し続けているんだなぁ~と感心した。でもその新しき中にも、古き良き伝統や美徳も受け継がれていて、本当に行灯行列は最高の文化だと思う。
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甲乙人
- 題材・構図・配色すべてに非の打ち所がありません。
仕掛人さんと同じことを言いますが荒々しさではなく美を追い求めた作品です。淡い色遣い、蝋の模様、針金の曲線など、本当に美しいです。 点対称を意識した斬新な構図も最高です。
行灯掲示板にこのクラスの責任者の方 (赤弓さん) の言葉が残っています。
> 「洛水の女神」は、 > 『洛神賦』という中国の物語をモチーフにしています。 > 興味のある方は、是非調べてみてください。 > そうすれば後ろの漢詩の意味も、 > 全体の配色が淡い理由も、 > 女神が浮かべた表情が悲しい理由も、 > 男が伸ばした手の理由も、 > 分かってもらえると思います。
こういうのですよ! こういうのがあってきちんと構図・配色に理由付けがされていると、すべてがマッチしてその行灯の持つ独特の雰囲気が生まれるんですよ。 今のところ歴代で最高の一体感だと思っています。 もう大好きです。生で見たかったです。
あと地味にすごいのが粘土の模型で、紙粘土ってかなり難しいと思うのですがこれは完璧に作ってあります。こういうの得意な人がいたんでしょうか。いずれにしてもたくさん失敗したんじゃないかと思います。 ここまで完璧に模型が作ってあると針金とか墨入れとかいろいろやりやすかっただろうなと思います。 もちろん模型を忠実に再現した、針金を筆頭とするその技術力もすごいです。 下絵・模型を忠実に再現するのは事前シミュレーションが重要なので、そうとう準備に時間をかけたんだろうなというのが伝わってきます。
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