クラス 68th3年4組
タイトル 瀬織津姫
行灯大賞
紹介文 嵯峨天皇の御世、深い妬みによって生きたまま鬼姫と化した公卿の娘は、強い怨恨に身を任せ、次々と人を襲い、殺し続けた。踠き苦しむ呪殺された怨霊が垣間見えるおどろおどろしい鬼火を纏い、今宵、瀬織津姫、宇治川にて舞うー。
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講評
保証人
針金・色塗り・電飾どれを取ってもトップレベルで文句なしの大賞だったと思います。

特筆すべきは鬼で、顔の針金はもちろん、色塗りや墨入れ技術が素晴らしかったです。髪の長さからしっかり女性らしさも感じられました。歯にロウを塗っていると思いますが(違ったらすみません)、これにより鬼の気迫ある表情がより表現できていてよかったです。
着物についてですが、ここまで立体感を表現できたもの(特に袖口)、そして紺といった暗い色に書き割り・ロウ書きをしっかり行なった行灯は過去にないと思います。ねぶたのようでした。

そして、鬼・人の顔合計5つに、大量の手(波)など、全体的に針金に正確さ・スピードがありました。
人の顔は、歴代の大賞の顔をモチーフにしているとのことですが、これを聞いたときは「その手があったか!」と思ってしまいました。また、波で手を表現するのは難しいことだと思いますが、しっかり表現できていてすごいです。

構図についてです。近年の傾向として、「壁・後塗り」というものがありますが、この行灯はそれの良い部分と、昔ながらの制作方法が取り入れられていてよかったです。具体的には、壁にも壁じゃない行灯にも見え、先塗り・後塗りで行なう箇所を適切に分けていたところです。
また、外側に薄い色(布・炎・水)を持ってくることで、輪郭がはっきりし、行灯が大きく見えました。
個人的に、上の部分は布、下の部分は袴が前に出てきていることで、鬼に吸い込まれるように感じました。こういう引き立たせ方もあるのか、と思いました。

これはすでに何度も議論されたことだと思いますが、鬼の顔をもう少しだけ大きくしてもいいかなと思いました(題名も瀬織津姫なので)。そうすることでより迫力を出せたと思います。

最後に、行灯大賞おめでとうございました!
甲乙人
今年の中でもずば抜けていた作品で、すべてにおいて非常に高い完成度でした。完成度でいったら洛水の女神以来か?といったところです。
近年は作業時間の少なさからけっこう雑になってしまうことが多いのですが、とても丁寧に作られています。これはめちゃくちゃすごいことで、きちんと計画を立てて作ったんだなということがわかります。

特に紙貼り!とても丁寧です。ここまで丁寧な紙貼りは久しぶりです。どのクラスも針金はこだわって作るのですが、こだわりすぎて紙貼りの時間を確保できなくなってしまうんですよね。そして紙貼りは適当になってしまうという。紙貼りは見た目の完成度 (おっここはちゃんと完成しとるな感) に直結するので、光漏れやシワなどがないように丁寧に貼ると完成度が高く見えます。丁寧に紙を貼る時間を確保できたのは後塗りだったからということもあるかもしれませんが、色も丁寧に塗られているのでどちらにせよ計画性が素晴らしいことには変わりはないです。また、紙貼りは大抵の場合人海戦術で貼るので、どうしても貼る技術に差が出てしまいます。この点3-4はあんまり差がないように見えます。クラス内で紙貼り講習会でもやったのでしょうか。なにか工夫した点があればぜひ教えてほしいです。

そしてその紙貼りを支える針金の丁寧さですね。紙貼りのことをよく考えた針金になっていると思います。灯りをつけて透かしたあとの針金の線もとてもきれいです (特に袴)。造形も素晴らしいです。いろいろな人が取り上げていますが、裾が綺麗すぎます笑。これはやばい笑。惚れ惚れします。全体的に曲線もかなり美しく作られています。あとは地味ですが物体間の境目!素晴らしいですね〜。構図のページでも説明しているように、境目は曖昧にされることが多いのですが、きちんと作ってあります。事前によく考えておかないと、最後まで曖昧にされてそこから光が漏れたりするのですが、この行灯は事前に細かいところまでよく練られている印象を受けました。誰か一人だけが把握していたのか、それとも複数人で共有できていたのか、気になります。

次に色。色は綺麗すぎます笑 最近は色がきれいな行灯が増えてきて嬉しいです。なんといっても着物が素晴らしいですね。配色・柄・グラデーションすべてのセンスがいい!紺色はベタ塗りだと難しいのですが、このようにろう点や書割や柄の周りを白で抜くとかなりきれいになります。構図のページに書いてあることを忠実にやってくれたのだと思います。間違いなく歴代トップレベルの塗りです (紅葉狩やシャクシャインと同じくらい?個人的にはいままでのすべての行灯の塗りで一番好きです)。
柄の周りを白で抜く (柄を先に描いて、あとから地の色をポンポンしているのだと思います) という技法は、確か66th3-4が使っていた技法なのですが、当時一年生だった68thのみなさんが使っているのが、こうやって伝統は続いていくんだなあという感じで感慨深いですね。今後も続いていってほしいです。

電飾もほぼノーミスですね。鬼の髪と、右下の針金が細かい部分くらいですかね。ここを光らせるにはLEDテープとかが必要になるかもしれないですね。LEDテープは使うのは結構簡単なので、今後このくらい細かい部分を光らせたいクラスはぜひ使ってみてほしいです。あとは全体的に昼光色を使っているのが気になりました。ここは好みの問題かと思いますが、自分はこの構図だと右下の水以外は電球色でいいくらい電球色が好きです。

あとは言うまでもなく鬼の顔は歴代一位 (造形、墨入れ、塗のグラデーション、など)、全体も下に向けられていて観客から見ていても違和感ないですしよく練られた構図になっていると思います。
顔の数は…どうなんでしょう?たくさんの顔を作ったからいい、という流れにはあまりなってほしくないのですが、とはいえ5個の顔を平均以上のレベルで作るのはすごいですよね。

さて、ではさらによくするためにはどうすればいいかを恐縮ですが考えてみました。
まず思ったのが、右側の4つの顔がなぜあるのか、ということが若干わかりにくいこと。紹介文を読んでいない初見では、なぜあそこにポンと顔が4つあるのか?と疑問を持ちました。
ではどうすればいいか、ということを考えてみたのですが、もう少し怨霊であることを強調できればいいのかなと思います。
目の色は赤にしていて素晴らしいのですがそれだけではなく、例えばさらに顔の色だったり (肌色だと生きているように見えます。後ろと同じピンク色、もしくは配色の問題があればグラデーションで別の色に変化させていくとわかりやすいかと思います)、顔と後ろのもやもやとの境目をもっとスムーズにしたり (顔がただ置いてある感じになっているので)、いろいろ工夫できそうではあります。
このあたりは設定によると思うので、現時点での表現が正しいのかもしれませんが……。紹介文を読む限りそうでもない気がしたので、そうするとより良くなるのかなと思いました。
あとは、保証人さんも言っているように、鬼の顔はこの1.5倍くらいあっていいと思います。他の4つの顔より小さくなっているので、メインを明確にするためにも大きくしたいです。大きくしてもおそらくバランスもそれほど悪くならないと思います。
あとは…なんといいますか、送りねぶた感があるんですよね。ねぶたの紹介ページに送りねぶたを参考にするのがいいと書いているので申し訳ないのですが、メインではないように感じられるというか、見るものを圧倒する何かが足りないような気がしました。いや、技術はものすごいし、完成度はもちろん歴代でも稀に見るほど高いのですが。感覚的な言い方で申し訳ないです。これも顔の大きさが解決してくれるのか…どうなんでしょうか。

まとめとしては、これほどまでの完成度はなかなかないです!おそらく各代の大賞クラスが制作時間など全く同じ条件で作ったら、完成度という観点ではこのクラスがトップではないでしょうか。すごい!傑作だと思います!